基本的なパラメーター設定のポイント
3Dプリンターで高品質な造形を行うには、スライサーで適切にパラメーターを設定することが重要です。以下では、特定のソフトに依存せず一般的な主要項目について解説します(レイヤー高さ、印刷速度、温度、充填率、冷却ファン、サポート、初層設定など)。
レイヤー高さ(Layer Height)
各レイヤー(層)の厚みです。値が小さいほど層が薄くなり、表面の解像度が上がりますが、その分レイヤー数が増えて印刷時間も延びます。逆にレイヤー高さを大きくすると造形時間は短縮されますが表面に段差が目立ちます。初心者は0.1〜0.2mm程度に設定すると良いでしょう。一般的に高精度が必要な模型や小物は0.1mm前後、大きな試作品など粗さよりスピード優先の場合は0.3mm程度まで上げることもあります。
印刷速度(Print Speed)
ノズルが造形中に移動し素材を押し出す速度です。速くしすぎると樹脂が十分に固まらないまま次の動作に移るため品質低下や失敗の原因になります。一般的な家庭用FDMプリンターでは毎秒30〜60mm(30–60 mm/s)程度が標準的で、中程度の速度から試すと良いでしょう。標準品質の出力ではおよそ50〜60 mm/sが推奨されています。素材によって適切な速度は異なり、例えばPLAは比較的高速でも造形できますが、柔軟なTPUなどは20 mm/s程度と非常に低速でないと失敗しやすいです。多くのスライサーでは初層は印刷速度を遅く(例えば半分以下)設定し、確実な定着を図る機能があります
温度(ノズル温度・ベッド温度)
ノズル温度(押し出し温度)とヒートベッド温度はフィラメント素材に応じて適切に設定します。樹脂が融け出す適正温度から外れると、低すぎれば押し出し不良・層間接着不良に、高すぎればフィラメントの焦げや糸引きが発生しやすくなります。PLAの場合はノズル約190〜220℃、ベッド45〜60℃程度が一般的な設定目安です。ABSの場合はノズル220〜250℃、ベッド95〜110℃程度と高めで、出力中は温度を一定に保つ工夫(エンクロージャーなど)が必要です。PETGの場合はノズル230〜250℃、ベッド**75〜90℃**程度が推奨され、ABSほどではないもののやや高温に設定します。印刷中はメーカーの推奨温度範囲内で微調整し、適切な押し出し状態になる温度を見極めましょう。
充填率・パターン(Infill Density/Pattern)
モデル内部の充填の割合です。充填率(インフィル密度)が高いほど内部が詰まり剛性や重量が増しますが、その分材料消費と時間も増えます。標準的な造形では15〜50%程度の充填率が推奨されており、強度がそれほど不要なものは低め(15〜20%前後)で十分です。機能部品など強度を重視する場合は50%以上に上げたり、中空に近い0%にするケースもあります。パターンも「格子(Grid)」「三角」「六角ハニカム」「ジグザグ」など選べますが、強度や印刷時間とのバランスで決めます。一般的にはデフォルトの格子状(Grid)や線状(Lines)がバランスに優れます。トップ/ボトム層をしっかり埋めるためには充填率20%前後あれば十分ですが、極端に低いと最上面に陥没(ピローイング)が起きるので注意しましょう。
冷却ファン設定(Cooling Fan)
造形物を冷やすためのパーツ冷却ファンの制御です。PLAは軟化温度が低く冷却が速いほどシャープに固まる性質があるため、ブリッジやオーバーハングの造形も含め積極的にファンを使用します。多くの設定でPLAは1層目以降に100%近いファン全開が推奨されています。一方、ABSは高温でないと層同士が密着せず、冷えすぎると収縮して反りや割れの原因になるためファンは基本OFF(もしくは弱冷却)で利用します。PETGはPLAほど冷却に依存しませんが、過度な冷却は層間接着を弱めるため中程度のファン設定(50%前後)で様子を見ると良いでしょう。小さいブリッジや細部で造形がダレる場合には一時的にファンを強めるなど、素材と造形形状に応じて調整します。なお通常、初層は冷却しない設定(ファン0%)にします。初層が冷めてしまうとベッドとの粘着力が低下し、剥がれや反りにつながるためです。
サポート設定(Support Settings)
造形物のオーバーハング(垂直からの傾き)が大きい部分を支えるサポート材の設定です。一般的に45°ルールと呼ばれる指標があり、垂直から45度を超える傾きにはサポートが必要とされています。スライサーでは「サポートを生成する角度閾値」を設定でき、例えば45°に設定すれば45°より水平に近い面だけ自動でサポートが付加されます。密度も重要で、標準は15%前後の密度が多いです。密度を高くするとサポート自体が頑丈になり造形中に安定しやすくなりますが、取り外しが難しくなり表面も荒れやすくなります。サポートと造形物の接触面には「インターフェース層」を設定でき、これを厚くするとサポートが剥がれにくく(密着する)なりますが、その分除去も手間になります。一般的には取り外しやすさを優先し間隔(エアギャップ)を少し空けてサポート接触面を設定します。複雑形状の場合、ツリーサポート(樹枝状に成長する特殊サポート)を用いると効果的なこともあります。サポート材そのものは基本的に造形と同じ素材を使いますが、二材料プリンターでは水溶性のPVAなど異なる素材を用いて後で溶かす方法もあります。
初層設定・造形テーブル調整(First Layer Settings & Bed Adhesion)
最初の1層目(初層)は造形全体の土台となるため特に重要です。初層がしっかりとビルドプレートに付着していないと、途中で剥がれて印刷が失敗してしまいます。初層関連の主な設定・対策には以下があります:
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初層高さ・押出量の調整: 初層はやや厚めに敷く、または押し出し量(フロー)を100%以上にして確実に隙間を埋める設定があります。ただし押し出し過多だと「ゾウの足」(後述)になるのでバランスが必要です。
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初層速度の低下: 前述の通り一層目はゆっくり印刷することで材料を確実に定着させます。
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ベッド温度: 素材に応じたヒートベッド温度を設定します(例:PLAは60℃前後、ABSは100℃前後)。初層のみ高めに設定し、以降はやや下げるプロファイルもあります。
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ベッド表面の前処理: 樹脂が付きやすいよう、ガラス板なら糊やヘアスプレーを塗布、PETシートならアルコール拭き取りで油分除去、あるいは造形シート(BuildTak等)を貼るなど、下地を整えます。
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スカート・ブリム・ラフト: 造形物周囲に余分なラインを印刷する「スカート」、周囲に広げた薄い縁を付ける「ブリム」、全面下に土台を敷く「ラフト」といった付加要素で初層の安定性を向上できます。ブリムはモデルの縁を広げて密着性を高め反りを防ぐ効果があり、ABSなど反りやすい素材で多用されます。ラフトはモデル全体の下に格子状の台を作り、モデル本体はその上に造形する方式で、多少造形精度は犠牲になりますが確実な定着が必要な場合に有効です。
なお、初層以前にベッドのレベリング(水平出し)調整が基本中の基本です。ノズルとベッドの隙間が適切でないと、どんな設定をしても初層が均一に出力されません。印刷前には紙1枚分の隙間を目安に四隅と中央の高さを調整しましょう。
材料ごとの適正設定と素材特性
FDM式で扱われる代表的なフィラメント材料ごとに、適した設定の目安や特徴を押さえておきましょう。材料によって適切な温度や冷却、トラブル発生傾向が異なります。
PLA(ポリ乳酸)
特徴: 植物由来の生分解性プラスチックで、臭いも少なく環境に優しいフィラメントです。造形しやすさは抜群で初心者に最適ですが、耐熱性・耐候性は低めです。収縮が小さいため反りにくく、複雑形状でも比較的トラブルなく造形できます。一方でガラス転移点が低いため、夏場の車内など高温環境に置くと造形物が変形してしまうことがあります。
印刷設定: ノズル温度は**190〜220℃程度、ヒートベッドは不要〜60℃**程度(無くても造形可能)です。冷却ファンは積極的に用い、特にブリッジや細部はしっかり冷やすことでシャープに仕上がります。標準的なPLAは高速造形にも適しており、50〜60 mm/s程度の中速〜高速で出力可能です(機種によってはそれ以上も可能ですが、まずは確実な造形ができる速度で運用しましょう)。ベッドへの定着も良好ですが、広い面積の造形では念のため糊付けやブルーテープを使うと安心です。
留意点: 温度が高すぎると糸引き(後述)が発生しやすいので、フィラメントメーカー推奨範囲の下限から試し、必要に応じ5℃ずつ上げて適温を探すと良いでしょう。また、長時間かけて少しずつ水分を吸う性質があり、湿度の高い環境で放置すると印刷品質が劣化します。未使用時は密封保管し、必要なら乾燥ボックスで乾かしてから使用してください。
ABS(アクリロニトリルブタジエンスチレン)
特徴: 強度・剛性や耐熱性に優れるエンジニアリングプラスチックで、機能部品に向きます。一方で造形難易度は高く、印刷時に有害な臭いも発生します。冷却時の収縮が大きく**反りや割れ(層間剥離)**が発生しやすいため、大きな造形には工夫が必要です。
印刷設定: ノズル温度は220〜250℃程度、ヒートベッドは95〜110℃程度の高温が必要です。造形中はできるだけ温度を一定に保つため、エンクロージャー(囲い)でプリンター全体を覆い、温かい空間を維持するとよいでしょう。冷却ファンは基本オフにし、急冷しないようにします。印刷速度は50 mm/s前後が無難ですが、機種によってはもう少し上げられます(高温のため硬化に時間がかかりすぎると形状崩れするため、極端に遅くしすぎないほうがよい)。造形テーブルにはABSジュース(ABSをアセトンに溶かした接着液)やABS用接着剤を塗る、専用シートを使うなどして強力に密着させます。
留意点: ABS造形時に生じるスチレン臭は換気が必要なほど強烈で、長時間吸い込むのは好ましくありません。必ず換気し、可能なら活性炭フィルター付きのエンクロージャーを使うなど安全にも配慮してください。またABSは紫外線で劣化しやすく、屋外では色あせや割れが生じるため、屋内用部品に適しています。もしABSの造形が難しい場合、近い特性でPETGやASA(耐候性ABS類似素材)などの代替も検討しましょう。
PETG(ポリエチレンテレフタレート-G)
特徴: PLAとABSの中間的な性質を持つ素材です。耐衝撃性・耐熱性はPLAより高く、ABSほど印刷時の臭いも強くありません。適切に印刷できれば層間接着が強く、機械的強度のあるパーツが作れます。反りはABSほど深刻ではありませんが、粘着性が高いため糸引きが発生しやすい傾向があります。
印刷設定: ノズル温度は230〜250℃、ヒートベッド75〜90℃程度が目安です。冷却は中程度(50%前後)のファン使用がおすすめで、冷やしすぎると層間剥離し、冷やさなすぎると細部が盛り上がったりするのでバランスが重要です。印刷速度は40〜60 mm/s程度が一般的で、造形品質を重視する場合PLAより少し**低速(50 mm/s程度)に設定すると良い結果が得られます。PETGは造形中にノズル先端に樹脂が付きやすく、これが塊になって途中で落下する「ノズルから垂れ(オーズ)」が起きることがあります。必要に応じてノズル先端を拭う動作(ワイプ)**を有効にすると効果的です。
留意点: ガラスやPEIシートなどベッドへの粘着が非常に強く、下手をすると印刷後に剥がす際ベッドを傷つけるほどです。ベッドにはのりスティックなどを敢えて塗り、薄い膜を介して密着させる(逆に言えば直接貼り付けない)ことで取り外しを容易にするテクニックがあります。また、透明なPETGフィラメントでは光沢が出やすく、逆にマットタイプでは表面がザラつきやすいなど、見た目の質感も製品によって異なります。印刷のコツを掴めば扱いやすい素材ですが、初めは少し試行錯誤が必要かもしれません。
(※上記の他、柔軟なTPU/TPE、ナイロン、複合木材フィラメントなど様々な素材がありますが、初心者〜中級者向けにはまず代表的なPLA/PETG/ABSを理解すると良いでしょう。)
よくある印刷トラブルと原因・対策
FDM方式で頻出する造形トラブルを、発生頻度や話題に上る頻度の高いものから順に解説します。それぞれの現象について、主な原因と対策・調整すべきパラメーター例を紹介します。
反り(Warping)
造形物の底辺の角や縁が持ち上がってしまい、平坦に造形できなくなる現象です。特にABSやナイロンなど冷却時の収縮が大きい材料で起こりやすく、大きな平面を持つモデルの四隅がプラットフォームから剥がれて反ってしまうことがあります。原因は急激な冷却や付着力不足によって、下層が収縮して上層を引っ張るためです。温度依存性が高く、冬場の低温環境やスキマ風による局所冷却でも発生しやすくなります。
反りを防ぐための対策はいくつかあります
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ヒートベッドの活用: 適切な温度に加熱したベッド上で印刷することで、底面を均一に温め樹脂の冷却を緩やかにします。ABSなら100℃前後、PLAなら60℃前後など素材に応じた温度を維持します。
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付着向上策: ベッドに糊やシートを用いて接着強化する、造形物の輪郭外にブリムを敷いて土台を広げておく(上の写真の赤い円形部分がブリムです。モデル周囲の面積を増やし縁を押さえることで反りを防止します)、必要に応じラフトを使用するなど、第一層が確実に固定される工夫をします。
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環境制御: 急激な冷却を避けるため、可能であればプリンターを囲うエンクロージャーを使い室温よりやや高い環境を保ちます。難しい場合でも冷気の当たる場所(エアコンの風や窓際など)を避け、段ボール箱をかぶせるだけでも多少効果があります。
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設計上の工夫: どうしても反ってしまう場合、モデルの角を丸める・底面にスカート(薄い広いベース)を設けるなど反りにくい形状に変更する手もあります。造形後に不要部分を切削する前提で、モデルの四隅に「ミミ」(ラフトとは別の小さな張り出し)を付け足すこともあります。
反りは3Dプリントで非常によくある問題であり、特にABSでは対策無しではまず避けられません。上述の対策を組み合わせ、造形物が冷めてもビルドプレートに密着した状態を維持できるようにしましょう。
糸引き(Stringing)
ノズルが空移動した際に樹脂が細く糸状に垂れてしまい、モデル間にクモの巣状のヒモが張る現象です。写真でもノズル先端から伸びる細い樹脂の糸が確認できますが、こうした薄いひげ状の繊維が模型表面に残ってしまいます。主な原因はノズル先端からの樹脂の漏れで、移動中に材料の粘性で糸が引いてしまうことにあります。高温で樹脂がサラサラになりすぎていたり、リトラクション(糸引き防止のためのフィラメント引き戻し)設定が不十分だと発生しやすくなります。
原因と対策:
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温度を適正化: ノズル温度が高すぎると樹脂が必要以上に流動し糸を引きやすくなります。素材に応じた適正温度に下げ、5℃刻み程度で徐々に低温側を試してみます(ただし低すぎると今度は押出不良になるため、印刷品質と出力安定性のバランスを見る必要があります)。
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リトラクション設定: スライサーの**リトラクション(引き戻し)**機能を有効にし、距離と速度を調整します。一般的な直径1.75mmのPLAでは距離5mm前後・速度40〜60mm/s程度が多いですが、ボーデンチューブ式かダイレクト式かで適切値は異なります。糸引きが残る場合は引き戻し距離を少し増やし、引き戻し速度も上げてみます。
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空移動の最適化: ノズルの空送り移動(印刷せず移動する動作)を速くすることで、糸を引く時間を短くします。例えば通常の移動速度150mm/sを200mm/sに上げるなどです。また、スライサーによっては「トラベル中のノズル拭き取り(Wipe)」や「経路最適化(Combing)」といった高度な設定があり、糸がモデル外周につかないよう制御できます。
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仕上げ処理: 出力後に残った糸は、ヒートガンやライターの火で軽くあぶると収縮して目立たなくできます。ただプラスチックを焦がさないよう手早く行う必要があります。根本的な解決ではありませんが、多少の糸引きなら後処理で取り除けることも覚えておくとよいでしょう。
糸引きは特にPLAやPETGで起こりがちな問題で、多くのユーザーが直面しています。適切な設定調整で大幅に軽減できるため、焦らず一つずつ確認してみましょう。
レイヤーずれ(Layer Shifting)
3Dプリント途中で特定の層から位置がずれ、その後も積層がずれたまま進行してしまうトラブルです。完成品を見ると途中でモデルが急に横にずれたような段差ができます。印刷中に「ガガッ」という音とともに位置が狂うこともあり、見た目にも大きな影響があります。
原因: レイヤーずれは機械的な要因で発生することが多いです。例えば、前述の反りで浮いたコーナー部分にノズルが衝突し、ステッパーモーターが一瞬ステップを飛ばして位置がずれるケースがあります。その他、ベルトの緩みやプーリーのネジの緩みで正確な位置決めができなくなる、印刷速度が速すぎて慣性でヘッドが追いつかなくなる、ファームウェアの加速度設定の限界超え、といった理由でも起こります。
対策:
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前段階の問題を解消: まずは反りなどで物理的障害が起きないようにします(レベル出し・付着改善)。モデルがベッドから半剥がれになっているとほぼ確実に干渉するので、そうなる前に対処します。
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機構の点検: ベルトの張り具合をチェックし、緩んでいるようなら適切なテンションに張ります。タイミングプーリー(滑車)の固定ネジも緩みがないか確認してください。稼働中に手で軽くベッドやヘッドを押してみて、ガタつき(バックラッシュ)が感じられる場合、その軸に緩みがあります。
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印刷速度の見直し: 高速で印刷しすぎている場合、特に方向転換の多いモデルではずれが発生しがちです。少し速度を落として様子を見ます。加えて、スライサー設定でZリフト(リトラクション時にZ軸を持ち上げる)を有効にすると、移動時にノズルがモデル表面を擦らなくなり、衝突による位置ずれを防げます。通常は0.5〜2mm程度のZリフトを設定します。
機械的なトラブルは再発する可能性が高いため、一度ずれが発生した場合は原因を突き止めて対処することが大切です。締め直しや潤滑など日頃のメンテナンスでも防げるケースがあります。
ノズル詰まり・押出不良(Clogged Nozzle / Under-Extrusion)
ノズルからフィラメントが正常に押し出されなくなり、スカスカの造形になったり途中で出力が止まってしまう現象です。エクストルーダー(送り機構)から「カチカチ」や「ガリガリ」という異音がする場合、フィラメントが送れずギアが空回り・削れている可能性があります。
主な原因: ノズル詰まりは物理的な塞ぎか熱管理不良によります。前者はフィラメント内のゴミや焼けカスがノズル先端に蓄積して塞ぐケース、後者はPLAなどで起こるヒートクリープ(熱がノズル上部まで伝わり、フィラメントがノズル内部で軟化して膨張・詰まる)です。また、設定温度が低すぎて溶けきらず詰まる、連続したリトラクションで溶けた樹脂が固まり詰まる、といったこともあります。
対策:
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詰まりの除去: まずはフィラメントを抜き、ノズル穴を細いピン(ノズルクリーニング用の極細針)で突いてみます。軽度の詰まりならこれで解消することもあります。それでも押し出せない場合、「ニードルによる物理的除去」「冷却後にフィラメントを勢いよく引き抜くコールドプル」「ノズル取り外し清掃」等の方法があります。コールドプルはナイロンなどを高温で溶かしノズル内に押し込み、冷えて少し固まったところで引き抜いて内部の汚れを絡め取る手法です。
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ヒートクリープ対策: PLAで長時間印刷する際に途中で詰まる場合はこれが疑われます。原因はホットエンドの冷却不足なので、放熱フィンのファンが正常に動作しているか確認します。あわせてプリント温度を少し下げてみる、あるいはフィラメントごとの適切温度まで温度設定を見直すことも有効です。
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予防策: 定期的にノズルを清掃・交換する習慣をつけましょう。特に充填率が低く高速移動が多いプリントでは、ノズル内で樹脂が焼けて炭化しやすいため定期交換が望ましいです。またフィラメント投入時に先端をカットしてまっすぐにする、古いフィラメントはホコリを拭ってから使う、フィラメントクリーナー(スポンジで埃除去する小物)を設置する、といった小さな工夫で詰まりのリスクを減らせます。
出力不良はノズル以外にも、エクストルーダーのローラーがフィラメントを削って空回りしている、フィラメントが終わりかけで滑っている、などの要因もあり得ます。一つひとつ潰して正常な押し出しを取り戻しましょう。
象の足(Elephant’s Foot)
造形品の一番下の層が潰れて外側に広がり、まるでゾウの足のように見える現象です。特に大きく平坦な底面を持つ造形物で起こりやすく、完成品の下端だけ微妙に寸法が大きくなってしまうため組み合わせ部品では問題になります。
原因: 主な原因は初層の押し付け過多です。ノズルとベッドの距離が近すぎて一層目が押し広げられる、あるいはベッド温度が高すぎて下層が半溶け状態で重みで潰れることなどが挙げられます。また初層だけ意図的に押出量を120%など増やしている場合も起こり得ます。ベッドレベリングが不十分で一部だけ間隔が狭い場合にも局所的に象の足が発生します。
対策:
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初層設定の調整: ノズルとベッドの間隔を適正化し、初層高さが低すぎないようにします。必要ならZオフセットを微調整して少しだけ離すことで改善できます。また初層の押出率(フロー)を100%前後に見直します(むしろ若干少なめにしてもよい)。造形ソフトによっては初層のみ特殊設定が可能なので、象の足が出る場合は初層厚みや押出を標準より減らすと効果的です。
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ベッド温度の管理: ヒートベッドが高温すぎると下層が軟らかいまま潰れやすくなります。モデル下部の形が安定した後(例えば数ミリ造形した後)にベッド温度を少し下げるプロファイルを使うと象の足を軽減できます。特にPLAでは60℃程度まで、PETGでも80℃程度までに留め、それ以上にしないほうが無難です。
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設計側での対処: モデルの下端に**小さな面取り(チャムファー)**を付けておく方法があります。例えば0.2〜0.4mm程度下部を削ぎ落とすようにモデリングしておくと、印刷時に少し潰れてもちょうど垂直になる、という寸法補正が可能です。ただし試行錯誤が必要なので、どうしても寸法精度が必要な造形のみ最終手段として用いるのが良いでしょう。
サポート剥がれ・サポートの安定性問題
オーバーハングを支えるはずのサポートが、印刷途中でビルドプレートから剥がれたり、最悪造形物からも外れて倒れてしまうトラブルです。これが起こると支えを失った部分が垂れ下がり、造形が破綻します。主な原因はサポートの付着不良や強度不足です。細いサポートがベッドにしっかり付いていないと、途中で巻き上がってノズルに引っかかり崩壊します。またサポート密度が低すぎたり間隔が広すぎると、サポートそのものが脆く折れやすくなります。
対策:
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ベッドへの密着強化: サポートがまず土台にしっかり付くことが重要です。通常のモデルと同様に、初層の高さとレベリングを再チェックし、サポート用のブリムを追加するのも効果的です。ブリムを使うとサポートの下に土台が広がり、支える面積が増えて安定します。「スカートのみ」設定の場合はブリムやラフトに変えてみましょう。また造形中にサポートが剥がれる場合、ベッドをアルコールできれいに拭いてホコリや油分を除去すると改善するケースがあります。
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サポート強度の調整: 必要に応じてサポート密度を上げたりパターンを変更します。密度を例えば20%→30%に上げれば強固になりますが、外しにくさとの兼ね合いです。接続部が小さいと感じたらインターフェース層を厚くするか、サポート接触距離(Z方向ギャップ)を少し小さくしてモデルに食いつかせると安定します。ただし接触が強すぎると除去に苦労するため、サポート材ががっちり必要な部分だけ局所的に設定を変えることも検討します。
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造形順序と冷却: 細いタワー状のサポートが主の場合、各レイヤーでサポートに掛かる時間が短く、冷える前に次の層が重なることでグラグラになる場合があります。その際は「最小レイヤー時間」を設定して小断面積の層でも十分冷却時間を取るようにします。また、ファンの風が当たりすぎてサポートが収縮・反り起こしている可能性もあるので、他の部分に影響なければ冷却を弱めてもよいでしょう。
サポート関連のトラブルは、ベッド付着と造形安定性という 基本の徹底 でかなり防げます。どうしても難しい形状では、サポートを分割して別パーツとして造形し、あとから接着する設計にするなど、発想を転換することもあります。まずは設定を見直し、小さなサポート一本でも剥がれない条件を探ってみましょう。
以上、代表的なパラメータ設定の考え方とトラブル対策をまとめました。適切なパラメータ調整と原因対策を組み合わせれば、多くの印刷失敗は事前に防ぐことができます。失敗した場合も慌てず原因を切り分けて改善し、3Dプリントを快適に楽しんでください。


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